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自殺予防について
メンタルヘルスマネジメント
国の対策もあり、日本の自殺者数は連続して減少することが出来ていました。しかし昨年は11年ぶりに自殺者が増加し、今年も現時点で更に昨年を毎月上回る自殺者が出ています。
報道では、コロナ禍において、自営業の方々の負担が高いことがとりざたされていますので、そういったことから自殺者が増加しているのかな?会社員の我々にはあまり関係ないのかな?と思われている方も多いかもしれません。
しかし、警察庁自殺統計データからみると実は自営業の方々の自殺数はむしろ減少(前年度比144人減)しており、増加しているのは被雇用者、つまり従業員の自殺数が増加しています(前年比540人増)。
自殺は本人だけでなく、周囲も大きなダメージを受けるものです。「関係ない」こととしてとらえたり、知っている気になって間違った対策をとらないように今回は自殺について正しい知識と予防法について考えていきたいと思います。
<自殺は気の持ちようでなんとでもなる?>
自殺した方に対して「逃げるなんて卑怯だ」「残された人のことを考えずに弱いやつだ」などと正に死者に鞭を打つようなことをおっしゃる方も少なくありません。
しかし、本当に卑怯で弱いだけで、自分で自分を殺すことが出来るでしょうか?
違う側面から考えてみましょう。あなたは自分の大切な人を守るためになら、自分で自分を殺すことが出来ますか?
出来る方でも、相当な勇気が必要なはずです。自分の死が大切な人に幸せをもたらすことが分かっていても、人間は、自分の命を脅かすような状況では本能的に恐怖という感情で死を回避させようとします。
自殺というのは、その本能的なストッパーが効かない状態でないと実行することは難しいのではないかと思います。本能というものは、脳が管理しているものです。つまり、自殺というのは脳が重大なバグを起こしているときに実行されるものではないかと思われます。
そして、あまり知られていないことですが、自殺はうつ病の一番重い状態のときよりも、治ってきている状態のときにおこりやすいという統計が出ています。
つまり、自殺の条件には、
・脳が弱っていて、いつもの機能が使えない状態であること
・ある程度の気力があること
という二つが大きくかかわっているのではないかと思われます。
ですので「卑怯だ」「強くなれ」「周囲を思いやれ」では自殺を止めることはできません。むしろ、ストレスを与えてしまい、脳のバグをもっと進ませてしまう、死に向かわせてしまう恐れすらあります。
<周囲から自殺をしたいと打ち明けられたら>
まずは、それだけきつい状況であるということを理解し、労ってください。
「もっと頑張れ」などという言葉は死を選ぶかもしれないほど追い詰められている人には大きなプレッシャーになり、脳のバグを進ませてしまう可能性がありますので、やめましょう。
相手が大事な人であればあるほど、たくさん口を挟んだり、アドバイスを矢継ぎ早にしたくなるかもしれません。しかし、まずは黙って、うなずいて話をゆっくり聞いてください。
そして、「そんなにきつかったんだね」と理解を示し、「話をしてくれてありがとう」と伝えてください。脳がバグを起こしていると、いろんなことに悲観的になります。打ち明けたことで、相手に負担をかけてしまった、自分は悪い奴だと自責的になることがあります。打ち明けてくれたことで、一緒に考えることが出来、あなたを失わずにすむかもしれないことは自分にとって本当にうれしいことだと伝えてあげてください。
そして、自殺というのは「今の状態から一刻も早く変化をしないと危険だ」と感じているある種の対処でもあります。自殺という方法ではない対処を焦らずにゆっくりと一緒に考えていきましょう。
そして重要なのは、脳がバグを起こしているということは、バグを修理しないといけないということです。今の状態は、脳に大きなストレスがかかって、バグを起こしているのだ、あなたが悪いわけではないということを説明するのも良いでしょう。そして、既に治療を行っているのなら、主治医に今の状態に合ったお薬を出してもらえるように相談を勧めましょう。ご家族や上司の立場なら、本人さんの同意を得て同行することも良いと思います。まだ治療を行っていないのであれば、ぜひ治療を勧めましょう。
ただし、その際、精神科や心療内科への偏見があるとなかなか治療に繋がらないということはとても大きな問題です。もちろんこれは本人さんだけでなく、勧める側にも偏見があれば上手く勧めることが出来ません。
精神科や心療内科、また薬についても正しい知識が必要です。
<精神科・心療内科って何を治すところ?>
「こころの病」という名前が広がってから、精神科は「こころを治す」というイメージも広がっているようです。
ただ、「こころ」という臓器はありませんので、結果的に「気の持ちようなのに、それが出来ない人が頼る場所」のような扱いをされている感覚があります。しかし、そうではありません。
これまで何度も書いてきたように「脳にストレスがかかりすぎてバグを起こしている状態」なのです。食べ過ぎて胃を酷使しすぎて胃が悪くなっているのと同じ状態です。気の持ちよう、根性で治すということは、弱ってうまく消化できなくなっている状態の胃を根性で治すということと同じです。勿論多少の弱り方であれば、食事を抜くなどして回復できます。それは、脳が弱っている状態も同様で、多少弱っている程度であれば「休養」で回復することも出来ます。しかし、状態によっては食事の調整だけで胃の状態を戻すことが難しいことと同様、脳の状態も治療という形でしか回復させるのが難しいこともあります。また、それだけストレスのかかっている状態ということは、なんらかの工夫をしなければ脳を休養する環境が整えられないということも考えられます。
精神科、心療内科では、脳の分泌物や血流の状態を整えるための薬を処方したり、正しく脳を休養する方法をアドバイスしてもらえる場所です。
<精神科、心療内科ってどんなことをされるの?>
みなさんどんなイメージがあるでしょうか?精神科医からいろいろ根ほり葉ほり話を聞きだされそう?自分のことを全て見通されそう?
残念ながら?そんなことはありません。初診は現状や思い当たるストレスの原因について聞き、今後の対策や薬の処方を考える情報を聞かれると思います。それでもかなり長くて30分、おそらく20分程度のことが多いのではないかと思います。また、次回からは症状や環境の変化についてお聞きすることが中心になるため、長くて15分、場合によっては5分もかからないことが多いようです。
なので、他の科の診察とほとんど変わらないと思っていただいてよいと思います。
また、私たちカウンセラーもそういわれることが多いのですが「何もかも見破られてそうでこわいー」と思われている方もいらしゃるようですが、エスパーしか精神科医やカウンセラーになれない法律があるわけではないので、残念ながらそれも違います。なので、自分の症状や思い当たるストレスの原因を箇条書きなどにして書いて出来るだけ情報を伝えていただけると回復するためのよりよい方法を一緒に考えさせていただけると思います。
<自殺を考えるまで追い詰められない環境作り>
あなたは今無理をしていませんか?多少の無理なら・・・と考えて少しの無理を長い間続けていませんか?あなたの脳は、幸運にしてバグを起こさずにやっていけるかもしれません。しかし、「無理するのが当たり前」の雰囲気作りで、周囲の人の脳にバグを起こさせる土台を作ってしまっているかもしれません。
まずは、疲れていたり、いつもと違う状態であれば、休養が出来やすい環境を作りましょう。そして、「疲れたー」と言い合える雰囲気作りをしましょう。
自殺は本人だけの問題ではなく、周囲の人へ精神的にも、仕事の負担としても、時には裁判など時間や金銭的にも大きな問題になりえることです。
誰かのためというよりも、みんなのために真剣に取り組む価値のある課題です。
特に責任のある立場の方が率先して「疲れたら休暇を取る、早めに帰る」「自分の仕事を他社にも任せられるように、また自分もまかせてもらえるようなシステムを作る」など工夫を考えられてみてください。
あしたもみんなでおはようと言えるように、当たり前の朝をむかえられるように。