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離職・異動を決断する3パターンと組織の対応策

メンタルヘルスマネジメント

離職・異動を決断する3パターンと組織の対応策

従業員が「離れる」ことを決断する背景には、必ず何らかの理由と、それに至るまでの内面的なプロセスが存在します。給与や労働条件といった顕在的な理由だけでなく、その人の「内面的な状態」を深く理解することは、優秀な人材の流出を防ぎ、組織の活力を維持するために不可欠です。

今回は、従業員の「離れたい」というサインを、その動機と自己認識のレベルに基づき3つのパターンに分類し、管理職として、また組織として、それぞれにどのように対応すべきかをご提案します。


パターン1:才能と目的が組織の枠を超える「高次の離脱者」

【その人の才能レベルでの明確な目的がある】

内面的な状態

非常に高い自己肯定感と、明確なキャリアビジョンを持っています。「今の環境では、自分の才能やスキルが最大限に活かせない」「目標達成に必要な経験が、この組織の外にある」という、ポジティブな飢餓感が動機です。彼らの離脱は、組織への不満ではなく、自己実現への強い意志によるものです。

 

新たな認識と対策

このタイプは、引き止めが困難であると同時に、組織の成長の限界を示唆しています。

1,キャリアの「出口戦略」を持つ
 彼らの目標を否定せず、むしろ「なぜそう考えるのか」を深くヒアリングします。その上で、もし社内でそのニーズを満たすポストがない場合は、円満な形で送り出し、将来的な協業や再入社(アルムナイネットワーク)の可能性を探る「卒業戦略」を構築すべきです。

2,成長機会の前倒しと創造
 離脱のサインが出る前に、彼らの才能に見合った、組織内で最も難易度の高いプロジェクトや、未開拓分野のミッションを任せることで、成長カーブを意図的に引き上げることが最大の予防策となります。

パターン2:自己分析を経て「環境との不一致」を確信した「冷静な離脱者」

【感情の言語化ができ、自己分析ができている人(才能と環境のマッチングができず離れることに。)】

内面的な状態
 このタイプの人材は、自らの「得意・不得意」と「現在の組織構造」との間に生じた「不適合」を言語化できる、極めて貴重な戦略的人材です。彼らの声は、個人の離職を防ぐだけでなく、組織が抱える構造的なミスマッチの傾向や、潜在的な才能の活用機会を測る貴重なデータとなります。

 

新たな認識と対策

1,「自己分析の結果」を組織に還元する対話
このタイプの社員との対話では、「なぜ辞めるのか」という慰留の議論から一歩進め、「あなたの自己分析を、このチームのパフォーマンス向上にどう活かせるか」という視点に切り替えます。

例)
・「トリセツ」の共有を促す:社員に「私の強みと弱み、そして最高のパフォーマンスを発揮できる条件」を言語化してもらい、それをチームや組織の資料として共有することを提案します。これは、彼らが持つ「自己認識の深さ」を、彼ら自身の“能力の取扱説明書”として組織に提供してもらうということです。

・「非効率の指摘者」としての役割を与える:彼らが指摘する「不一致」や「非効率」は、組織の盲点です。彼らの視点を活かし、「今の部署で非効率に感じるプロセスを3つ挙げてほしい」「あなたの才能を活かすために、このチームが変えるべき慣習は何か」といった問いかけを通じて、組織改善プロジェクトの小さな責任者やアドバイザーとして巻き込みます。

 

2,「才能とチームの需給」をマッチさせる戦略的配置
彼らの自己分析の結果を参考に、チーム全体の戦力アップを目的とした配置を実行します。

例)
・ジョブ・クラフティングの推進:彼らの「最高のパフォーマンスが発揮できる条件」に基づき、現在の業務の中から「最も不得意で疲弊するタスク」を切り離し、そのタスクを得意とする他のメンバーやAIツールなどに割り振ります。代わりに、彼らが「効率よく成果が出せる」の割合を意図的に増やし、業務内容を再設計(ジョブ・クラフティング)します。

・ 「ハイブリッド・アサインメント」の導入:部署異動が難しくても、彼らの強みを活かせる横断プロジェクトへの参画や、専門知識が必要なタスク限定の兼務を提案・実行します。これにより、彼らの才能を最大限に生かしつつ、現在のチームにも貢献するという「ハイブリッドな配置」を実現し、社内でのミスマッチ解消の選択肢を広げます。

・「不得意」を補完するリソースの提供:「マネジメントは不得意だが、戦略立案は得意」といった自己分析があれば、マネジメントの補佐役(リソース)を意図的に配置し、彼らが「得意な領域だけに集中できる環境」を整備します。

 管理職は、このタイプの人材を「辞めそうな社員」として扱うのではなく、「組織の課題を可視化し、成長を牽引してくれるコンサルタント」と見なすことが、引き止めと組織変革の両方を成功させる鍵となります。

パターン3:不安を孤立させ「エネルギー切れ」に至った「沈黙の離脱者」

【感情の言語化ができず、不安のSOSが出せない人。周囲からの手厚いサポートの時期が過ぎ、自力で不安のSOSを出す必要が出始めた2年目以降、自力でどうにもできないタイプ】

内面的な状態
 このパターンは、自力で問題を解決できない状態にあり強い不安を抱えているにもかかわらず、それを自分の「弱さ」や「甘え」と感じ、周囲に助けを求められずいる(内なる壁)ことと、「周囲(特に上司)は私の苦境を察して助けるべきだ」という無意識の他者依存・期待(外への壁)の二重の壁に阻まれています。

彼らが「離れる」決断に至るのは、単に業務が困難だからではありません。この二重の壁によって、「SOSを出さない自分」と「察してくれない周囲」の間で精神的な不安感や孤立感が極限に達した結果です。

したがって、このパターンの社員の不満や離職理由は、具体的な業務内容ではなく、本人自身のコミュニケーション(SOSの出し方)の問題にあります。管理職として、この問題を「察する」ことで解決しようとするのは限界があり、「構造的にコミュニケーションを成立させる仕組み」をデザインする必要がある、と認識を転換することが効果的だと思われます。

 

新たな認識と対策

1,「察してサイン」を乗り越える構造的対策
管理職は、「察する」努力ではなく、「SOSを出せない社員でも助けを求められる仕組みが存在しない」という組織側の構造的な問題の一つとして受け止め、下記の対策を講じます。

例)

・「SOSは評価に関係ない」ルールの明文化不安の相談やヘルプを求める行為が、人事評価や昇進・昇格に一切影響しないことを、具体的な事例や組織メッセージとして繰り返し発信し、「SOSを出すリスク」をゼロにします。

・「2年目の壁」への意識的な介入: 特に入社2年目以降の社員に対し、管理職や人事が定期的な「メンタルヘルス・チェックイン」の機会を設け、業務評価とは切り離した第三者(メンター、人事、外部カウンセラーなど)への相談ルートを意図的に整備します。

 

2,「言語化を前提としない」コミュニケーション戦略
本来は、本人が不安のSOS言語化して発信する必要があるので、研修などで啓発していくことも必要です。しかし、戦略として考えられることとしては、社員が直接的なSOSを出せないことを前提に、管理職が「不安の有無」を把握できる仕組みと、「自力で解決できるような自己分析の機会」を作るための支援が効果的でしょう。

例)

・「バロメーター報告」の習慣化::1on1ミーティングや日報で、具体的な業務進捗だけでなく、「今の仕事の満足度を10段階で表現すると?」「現在のエネルギーレベルを天気で例えると?」など、感情や状況を間接的・定性的に表現できる「バロメーター」の報告を義務化します。言語化が苦手でも、数字や記号で状態を伝えることを促します。

・「タスクの解像度を上げる」指導:不安の原因が「どうしていいかわからない」という状況にある場合が多いため、業務指示の際に「目標」だけでなく、「目標達成までに踏むべき具体的な最初の3つのステップ」を明確に示します。これにより、漠然とした不安を「次の行動」という具体的なタスクに分解し、「自分にもできる」という感覚(自己効力感)を回復させます。

・「成功体験のデザインと伝わる承認」: 社員のキャパシティに合わせ、必ず達成できる小さなミッションを意図的に与え、その達成に対して、期待値以上の明確で具体的な承認(フィードバック)を行います。「あなたは組織に必要とされている」というメッセージを直接的に伝え、孤立感の打破と責任感の再構築を促します。

 

このタイプの社員の「察してほしい」という期待に応えることではなく、「SOSを出せない状態から脱却し、自力で問題に対処できる力を取り戻させる」ための環境整備とスキルアップ支援にあると心得ることが重要です。


組織の成長に「離脱のサイン」を活かす

従業員の「離れたい」というサインは、単なる人材流出の危機ではありません。それは、組織の成長と改善のための「貴重な警報」であり、明確な課題提示です。

□パターン1 「組織の成長スピード」を問い直す機会

□パターン2 「適材適所の配置戦略」を見直す機会

□パターン3 「マネジメントの質と心理的安全性」を検証する機会

この3つのパターンをチェックリストとして活用し、日々の対話と配置戦略に活かすことで、人材の流出を最小限に抑え、組織全体のエンゲージメントを高めていくことができるでしょう。


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