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なぜ、あなたの職場は変わらないのか? パワハラを生む2つの心理的メカニズム

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なぜ、あなたの職場は変わらないのか? パワハラを生む2つの心理的メカニズム

ハラスメントやアンガーマネジメント、コンプライアンスに関する研修を重ねても、職場の人間関係の改善が難しいと感じることはありませんか?

実際のカウンセリング現場では、加害者側と被害者側の認識に大きなズレがあるケースが頻繁に確認されています。例えば、上司は部下の困った状況を何とかしようと、責任感から一生懸命アドバイスしているつもりでも、部下はそれを『叱責』や『問い詰め』と感じ、心身ともに疲弊してしまう――。このようなご相談は非常に多く、高い期待を背負って入社した新入社員が、早期に退職してしまう悲しいケースも少なくありません。

また、上司が部下に対して、つい大声を出したり暴言を吐いてしまう衝動に駆られ、気づけば取り返しのつかない状況になっていた、という事例も耳にします。

これらのケースの多くは、個人の特別な問題というよりも、特定のコミュニケーションの型に起因していることが明らかになっています。不適切なコミュニケーションが心理的な構図を作り出し、結果としてパワーハラスメントへと発展してしまうのです。

本記事では、パワーハラスメントを生じさせる二つのコミュニケーションの型と、その背景にある心理的メカニズムについて詳しくお伝えします。

パワーハラスメントを生じさせる2つのコミュニケーションの型

パワーハラスメントの定義やアンガーマネジメントの学びも大切ですが、それ以上に、その根底にある心理的なメカニズムを知っておくことが不可欠です。それこそが、パワハラの予防と根本的な対策につながります。

今回は、特に注意すべき二つのコミュニケーションの型をご紹介します。どちらのケースも、当事者双方に悪気はなく、これまでの育ってきた環境からの価値観や、職場の慣習が、意図せず間違ったコミュニケーションの型となり、パワハラを誘発している点が非常に厄介です。

タイプ1:感情を伴わない「状況説明」によるコミュニケーション

皆さんは、「不安だ」と伝えてしまうと、「ダメな人間」「仕事ができない人間」と思われるのではないか、あるいは、それを聞いた相手を困らせてしまうのではないか、と考えていませんか?カウンセリングにいらっしゃる方のほとんどが、そうお話されます。

例えば、新しい部署に異動して不安になったり、分からないことがあっても、『不安だ』という言葉をひた隠しにし、「不安ではいけない!」と自分を偽りながら頑張り続けてしまう人が少なくありません。しかし、そうして抑え込んだ「不安感」は消えることなく、とうとうメンタルダウンに繋がってしまうケースも多く見られます。カウンセリングで一時的に気持ちが和らいだとしても、完全に解決せず、そのまま休職や離職へと繋がってしまうことも残念ながら少なくありません。

実は、皆さんが「ダメな感情」だと思いがちな『不安感』は、決して弱いことの代名詞でも、できないことのレッテルでも、全くないのです。

「誰かの役に立ちたい」「目的をもって頑張りたい」「でも、うまくいくだろうか、うまくいかないかもしれない」などと思った時にこそ、『不安感』は現れます。 ですから、『不安感』という感情は、目的を持った行動への「頑張りの証」でもあるのです。

なぜ「状況説明」だけではダメなのか?

「困った状況の説明(=感情言葉なしの状況説明)だけ」だと、相談を受けた側は、語られた状況に対し「その状況の場合はどうしたら良いだろうか、何ができるだろう」と、正解を探し、あれこれとアドバイスをします。しかし、相談者が本当に困っている「不安な問題」に焦点が当たらず、不必要な情報でさらに困惑してしまうことがあります。その結果、相談者は「やはり自分は役に立たないダメな人間だ」と不安が増したり、あるいは「理詰め」で攻撃されていると感じたりしてしまうのです。

適切なサポートを引き出すコミュニケーションの型

一方で、状況の説明と「~が不安です」という感情の言語化をセットで伝えると、相手はピンポイントで相談者が今一番必要としていることをサポートできます。何が不安なのかを一緒に分析することになるので、より適切なサポートが提供されるのです。また、その人が頑張っていることは伝わりますから、既にできる部分は温かく見守ってもらえます。

このように、相談者のニーズと、相談を受けた側のサポートや見守りがパズルのピースのようにぴったりと合い、ミスコミュニケーションを防ぐことができるため、非常に効率的で効果的な関係が築けます。結果として、感謝と信頼が生まれ、共に問題を乗り越えることで個人の成長へと繋がっていくのです。

「困っている従業員にアドバイスをしたいが、プレッシャーになるのでは?」と悩む方も多いですが、この「状況の説明+感情の言語化」という方法であれば、本人が望むアドバイスになるため、プレッシャーになることはありません。

「~が不安です」と伝えられれば、仲間からはプレッシャーのない適切なサポートと、温かい見守りを受けることができます。つまり、働く場所が「最高の安全地帯」になるのです。誰もが安全地帯で仕事をしたいと願っています。働く場所が安全地帯でなければ、人は離れていってしまうでしょう。そのために、感情の言葉を現在形で伝え合うことが非常に大切なのです。

※ただし、「不安です」と伝えたときに、サポートや見守りをしてくれない人は、あなたの真の仲間ではない可能性があるため注意が必要です。

タイプ2:「憐みサポート」による一方的な介入、または「価値観の押し付け」

「憐みサポート」とは、一体何か。

相手の不幸や弱さ、未熟さに同情し、慈悲の心から「助けてあげたい」「救ってあげたい」という気持ちで差し伸べられる援助。単なる「かわいそう」という感情を超え、行動を伴う積極的なものです。 「まだまだ未熟だから言うことを聞いてあげよう」という気持ちでサポートを受けてしまっても、同じように主従関係に陥る危険性があることを忘れてはなりません。この場合、善意で受け入れたつもりが、いつの間にか従う側になってしまうのです。

「価値観の押し付け」とは。

会社の方針や労働契約、双方の合意の下で結ばれた約束は、もちろん守るべきことです。しかし、個人的な価値観や捉え方に関しては、本来守るべきものではありません。そうであるにも関わらず、一方的な価値観や捉え方で相手を説得し、言うことを聞かせてしまう行為を「価値観の押し付け」と呼んでいます。

これらの行為は往々にして、「自分よりも弱い立場にある人」という意識や、「自分の価値観こそが相手より正しい」といった認識から行われます。ここに、「憐みサポート」や「価値観の押し付け」の核心があるのです。

つまり、「憐みサポート」や「価値観の押し付け」は対等ではない関係性の上に成り立つものなのです。

同じ職場で働く仲間は、たとえキャリアや役割に違いがあっても、人としては対等です。彼らは救済の対象ではなく、互いを尊重し、補い合う存在であるべきです。 「憐みサポート」や「価値観の押し付け」が一度行われると、その時点で関係性は対等ではなくなり、無意識のうちに主従関係が形成されてしまう――それが「憐みサポート」や「価値観の押し付け」の本質なのです。

「主従関係」が引き起こす負の連鎖

一度「憐みサポート」や「価値観の押し付け」によって『主従関係』が形成されると、支配する側には、指示や命令に従わない相手に対し、大きなストレスが生じます。このストレスは、無意識のうちに「もっと従わせたい、管理したい」という衝動的な心理状態へと高まります。

この心理は自覚されにくいものです。支配する側の「もっと従わせたい」「管理したい」という気持ちが募ると、相手が少しでも意に沿わない行動をとったり、状況が見えなかったりするだけで、無意識に「おまえごときが私の言うことを聞かないとは」という感情が湧き上がります。それが衝動的な強い口調、暴言へとつながり、場合によっては暴力に発展してしまうこともあります。

この状態こそが、まさにパワーハラスメントの本質と言えるでしょう(これはDVのメカニズムと共通しています)。

この一連の心理メカニズムは、驚くほど普遍的に発生します。これまで数多くのカウンセリングを通して、職場でパワハラ的な関わりを受けた方の悩みを聞いてきましたが、ほとんど例外なく、このエピソードが当てはまるのです。

「憐みサポート」や「価値観の押し付け」がもたらす自己肯定感の低下と依存

一方、「憐みサポート」や「価値観の押し付け」を受けてしまった側は、『主従関係』の中に置かれ、「自分はダメな人間だから、従うべきだ」という心理状態に陥ります。

厄介なのは、この「自分はダメな人間」という自己肯定感の低さが、特定の上司だけでなく、その人の日常生活全般に深刻な影響を及ぼすという点です。どんな場面でも自信が持てず、常に誰かに依存しなければ不安で仕方がない心理状態になってしまうのです。

このような自信の喪失は、未来への不安を常に引き連れてきます。 「もし~になったらどうしよう」 「周りに迷惑をかけるかもしれない、そうなったらどうしよう」そして、「周囲は私のことをダメな人間だと思っているに違いない」「これからも誰かのいう事をきいていかないと、ダメだと思われてしまうかもしれない」など。。

この自信のない心理状態は、さらに周囲からの「憐みサポート」や「価値観の押し付け」を誘発し、悪循環が繰り返されます。結果として、お互いのストレスは増大し、体調や仕事にまで大きな悪影響を及ぼすことになるのです。

この悪循環から抜け出すために

この負の心理状態を解除するためには、まず「憐みサポート」や「価値観の押し付け」の本質を理解することが不可欠です。理解することで、未然に防ぐための予防策を講じることができます。

【予防策:対等な関係を築くための合意形成】

どうしても自分の価値観や捉え方での説得をしたい場合は、まず、その価値と同じ重みの相手の価値観や捉え方を受け入れ、お互いに歩み寄る必要があります。二人の合意のもとで約束をする(ルール作りをする)ことで、「対等な関係」が維持され、上記のような悪影響を予防することができます。

例えば、当たり前と思われがちな「社会人としての振る舞い」などがこれに当てはまります。それぞれの価値観が異なるため、このような会社の規約以外の部分のグレーゾーン的な捉え方は、パワハラに発展しやすいものです。しっかりと合意を結ぶ必要があると言えるでしょう。

ただし、複数対1で説得したり、説明だけで感情の言葉が抜けてしまったりすると、残念ながら合意を得ることが難しくなってしまいます。合意でのルール作りをするためには、日頃から「複数対1」のコミュニケーションを行わないよう心がけ、感情の言葉を伝え合える職場である必要があります。その環境こそが、心理的安全性の保たれた職場と言えるのではないでしょうか。

【もしも「憐みサポート」や「価値観の押し付け」を与えてしまったり、受け取ってしまったら】

しかし、もし既に「憐みサポート」や「価値観の押し付け」を与えてしまったり、受け取ってしまったりしている場合は、以下の対処法が考えられます。

1. 「憐みサポート」や「価値観の押し付け」を拒否し、受け取らない これは非常に困難な選択です。自己肯定感が低下している場合、「自分が悪い」「言うことを聞かなければ」「怒られるのは自分が悪い」といった心理状態に陥りがちであり、「言うことを聞かない」という選択は非常に難しいからです。それでも自ら拒否をすることができた時、それは「憐み」という、自分が下に扱われていることに気づき、対等ではない関わりに疑問を抱くことができた時です。

2. 関係性から物理的に離れる 当事者同士では心理的な『主従関係』が強く根付いてしまい、自力で関係から離れることは困難な場合が多いです。しかし、物理的に距離を置くことで、その関係性の影響が和らぎ、客観的に状況を見つめ直すことができるようになります。ただし、物理的な距離だけでは『主従関係』が完全に解除されるわけではないため、自己肯定感は低いままで、再び別の「憐みサポート」や「価値観の押し付け」を誘発してしまう可能性があります。

だからこそ、当事者だけでなく、周囲も「憐みサポート」や「価値観の押し付け」のメカニズムを深く理解し、再発防止に努めることが不可欠です。 具体的には、従業員全員が「「憐みサポート」や「価値観の押し付け」を与えない、受け取らない」という意識を持つことが重要です。

これを実践することで、企業全体として非常に安心で安全な職場環境を築き、持続可能な発展へと繋がることでしょう。


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※このブログやコミュニケーションの型のセミナーは、SSD理論(山口純子氏(日本女性心身医学会会員、Spinal signal Decoding学会 会長)の学びをもとに、実際のカウンセリングやコミュニケーションのワークでの検証を基に開発しています。
https://www.yamaguchi-junko.com/